1. 礼文島キャンプ旅行のプロローグ:最北の離島の基本情報とアクセス・準備の極意
日本の最北端に位置する北海道稚内市の西方、日本海にぽつりと浮かぶ礼文島(れぶんとう)は、別名「花の浮島」として世界中の旅人やハイカーから熱狂的な支持を集める美しい離島です。
最高峰の礼文岳を中心に、なだらかな丘陵地帯とダイナミックな断崖絶壁が織りなす景観は、まるで日本であることを忘れてしまうかのような北欧風の壮大なスケールを誇っています。
標高が極めて低いにもかかわらず、気候の関係で本州では標高2000メートル級の高山でしか見られないような貴重な高山植物が、海岸線のすぐ近くから咲き乱れる奇跡のような環境がここにはあります。
この奇跡の島を全身で、そして最も濃密に体感する方法が、大自然の中に身を置く「キャンプ旅行」です。
まずは、礼文島でのキャンプを成功させるために絶対に知っておきたい基本情報や、島へのアクセス方法、そして本州のキャンプ場とは大きく異なる特有の準備と心構えについて、詳しく、かつ具体的に解説していきます。
礼文島へのアクセスルート:フェリーの運航と稚内からの渡航手順

礼文島へ渡る唯一の交通手段は、ハートランドフェリーが運航する定期船(フェリー)です。
旅の始発点となるのは、北海道稚内市にある「稚内港フェリーターミナル」です。
稚内港から礼文島の東の玄関口である「香深港(かふかこう)」までは、直行便でおよそ1時間55分の船旅となります。
夏の観光シーズンには1日に数本の便が運航されていますが、天候や季節によってダイヤが変動するため、事前に公式ホームページで最新の時刻表を確認しておくことが絶対条件です。
また、隣にある利尻島(りしりとう)を経由して礼文島へ入るルートもあり、利尻島・沓形港や鴛泊港からのフェリーを利用して2島を同時に巡る壮大なアイランドホッピングを計画するキャンパーも非常に多いです。
フェリーの乗船手続きですが、徒歩で乗船する場合(バックパッカースタイル)は当日窓口での購入でも比較的スムーズに乗船できます。
しかし、自分の車やバイクをフェリーに載せて島へ渡る「マイカーキャンプ」「バイクツーリングキャンプ」の場合は、車両の積載スペースに限りがあるため、旅行の日程が決まった時点で一刻も早く往復の事前予約を確保する必要があります。
特に7月や8月の最盛期には、車両航送の予約が数ヶ月前から満車になることも珍しくありません。
もし車両の予約が取れなかった場合は、稚内港の周辺にある駐車場に車を預け、キャンプギアを大型のバックパックやキャリーカートにまとめて徒歩で乗船するスタイルに切り替える柔軟性も必要となります。
最北の気候とキャンパーを悩ませる「風」の対策
礼文島でキャンプを行う上で、絶対に甘く見てはならないのがその「気候」と「風」の強さです。
礼文島は緯度が高いため、夏の真っ盛りである7月や8月であっても、平均気温は20度前後に留まり、最高気温が25度を超える日は年間を通してもわずかしかありません。
日中は日差しがあればトレッキング中に汗ばむこともありますが、夕方から夜間、そして早朝にかけては一気に気温が下がり、10度近くまで冷え込むことが日常茶飯事です。
そのため、夏であっても感覚としては「本州の晩秋や初冬」のキャンプと同じレベルの防寒対策が必要不可欠となります。
さらに、キャンパーを最も苦しめるのが、遮るもののない日本海から吹き付ける猛烈な強風です。
島独特の突風や強風が吹き荒れると、安価なファミリー用テントや風の抵抗を受けやすい大型のワンポールテントは、ポールが折れたり生地が破れたりして一瞬で崩壊するリスクがあります。
礼文島に持参するテントは、風を受け流す構造の本格的な山岳用ドームテントや、耐風性に優れた強固なクロスフレーム構造のものを強く推奨します。
ペグについても、地面が硬い場所や砂混じりの場所に対応できるよう、頑丈な鍛造ペグ(スチール製)を多めに用意し、すべての張り綱(ガイライン)を完璧に地面に固定する技術が求められます。
「風対策を制する者が礼文島キャンプを制する」と言っても過言ではないほど、風への備えは生死を分ける重要なポイントとなります。
礼文島キャンプのベストシーズン:お目当ての花と気候のバランス

礼文島でキャンプ場がオープンし、快適に過ごせるベストシーズンは「6月上旬から8月下旬」のわずか3ヶ月ほどの期間です。
この短い夏の間に、島は爆発的な生命力を見せ、季節ごとに異なる美しい花々がバトンを繋ぐように咲き誇ります。
まず、6月上旬から中旬にかけては、礼文島固有の高山植物の女王である「レブンアツモリソウ」が開花する時期です。
クリーム色の丸っこく愛らしい花を見るために、世界中から多くの観光客が集まりますが、この時期はまだ夜間の気温が非常に低く、ストーブや本格的な冬用シュラフ(寝袋)がないとキャンプは厳しい季節でもあります。
一般のキャンパーに最もおすすめできるのは、気候が比較的安定し、島全体が黄色いレブンソウやエゾカンゾウの絨毯で埋め尽くされる「6月下旬から7月中旬」の時期です。
この時期は高山植物の最盛期であり、トレッキングとキャンプを組み合わせるにはこれ以上ない最高のタイミングとなります。
8月に入ると、風が少し穏やかになる日が増え、海水の透明度も増してマリンブルーの絶景を楽しめるようになりますが、お盆を過ぎると一気に秋の気配が漂い始め、朝晩の冷え込みが一段と厳しくなっていきます。
9月に入ると、多くのキャンプ場がクローズに向けて動き出し、フェリーの便数も減るため、快適なキャンプを楽しみたいのであれば、やはり7月を中心に計画を立てるのが最も賢明な判断と言えます。
装備選びの極意:軽量化と防寒性のハイレベルな両立
礼文島へのキャンプ旅行では、徒歩乗船にせよ車移動にせよ、装備のセレクションが旅の快適性を大きく左右します。
特に徒歩で移動するバックパッカースタイルの場合、フェリーターミナルからキャンプ場、あるいはバス停からの移動をすべて自力でこなす必要があるため、軽量化(ウルトラライト)を意識しつつも、過酷な自然環境に耐えうる機能性を維持するという絶妙なバランスが求められます。
寝具に関しては、夏用として売られている薄手のシュラフでは確実に寒さで眠れなくなります。
快適睡眠温度が「0度から5度」前後に設定されている、3シーズン用の上質なダウンシュラフを用意することが必須です。
さらに、地面からの冷気を完全にシャットアウトするために、断熱性の高いクローズドセルマットや、エアー注入式のインフレータブルマットの併用が強く推奨されます。
調理器具(クッカー)やバーナーについても、強風下でも火力が安定するウィンドスクリーン(風防)付きの一体型ガスバーナーや、風に強い寒冷地仕様のパワーガス缶を選択することが重要です。
普通のカセットコンロや風防のないバーナーでは、風で炎が流されてしまい、お湯を沸かすことすら困難になるシチュエーションが多々あるため、道具の信頼性には徹底的にこだわってください。
服装とレイヤリング:最北の地で快適に過ごすための衣服計画
礼文島での服装の基本は、登山と同様の「レイヤリング(重ね着)」です。
島では天候が目まぐるしく変化し、霧(ガス)が立ち込めたかと思えば急に強い日差しが照りつけることも珍しくありません。
まず、肌に直接触れるベースレイヤー(下着)には、汗をかいてもすぐに乾き、体を冷やさない速乾性・透湿性に優れたポリエステル製やメリノウール製のスポーツウェアを選びます。
綿(コットン)のTシャツは汗を吸うと乾きにくく、強風に吹かれた際に急激な低体温症を引き起こす原因になるため、キャンプやトレッキングでは絶対に避けてください。
その上には、体温を適度にキープするためのミドルレイヤーとして、軽量なフリースや薄手のインナーダウンを用意します。
そして最も重要なのが、一番外側に着るアウターレイヤー(長袖の上着)です。
激しい雨や猛烈な風、そして押し寄せる濃霧から身を守るために、ゴアテックス(Gore-Tex)などの優れた防水透湿性素材を使用した本格的なマウンテンパーカーやレインウェアが必須となります。
島内を観光する際も、このアウターを常にバックパックに入れて持ち歩くのが礼文島スタイルの鉄則です。
さらに、夜間のキャンプサイトでのリラックスタイム用に、厚手の靴下やニット帽、ネックウォーマーなどの防寒小物を忍ばせておくと、体感温度が劇的に上がり、最北の夜を笑顔で過ごすことができるようになります。
2. 聖地を宿す:礼文島が誇る絶景キャンプ場の選び方と利用ルール
礼文島には、大自然のダイナミズムを間近で感じることができる素晴らしいキャンプ場が整備されています。
それぞれに異なるロケーションの魅力があり、どのような旅のスタイルを望むかによって最適な選択肢が変わってきます。
ここでは、島を代表する2大キャンプ場である「緑ヶ丘公園キャンプ場」と「久種湖畔キャンプ場」のそれぞれの特徴を徹底的に比較解説し、島ならではのキャンプのルールやマナーについても詳しく掘り下げていきます。
緑ヶ丘公園キャンプ場:利尻富士を望む高台の絶景ロケーション
香深港フェリーターミナルから車で約10分、なだらかな丘を登った高台に位置するのが「緑ヶ丘公園キャンプ場」です。
このキャンプ場の最大の魅力は、何と言ってもその圧倒的な眺望にあります。
天気の良い日には、海の向こうにそびえ立つお隣の利尻島の象徴、「利尻富士(利尻山)」の雄大な姿をテントサイトから遮るものなく一望することができるのです。
朝日に照らされる利尻富士を眺めながらコーヒーを淹れる時間は、まさにキャンパーにとって至福の瞬間であり、この景色を見るためだけに礼文島を訪れる価値があると断言できます。
サイトは美しい全面芝生のフリーサイトとなっており、ふかふかの地面はペグの効きも良く、非常に心地よい設営が可能です。
設備面も非常に清潔に管理されており、水洗トイレや自炊用の炊事棟がしっかりと完備されています。
港からのアクセスが良いため、島に到着してすぐにベースキャンプを設営しやすく、周辺の観光地や飲食店への移動の拠点としても非常に利便性が高いのが強みです。
ただし、高台にあるというロケーションの裏返しとして、海からの風をダイレクトに受けやすいという側面を持っています。
ひとたび天候が崩れると、吹きさらしの強風がテントを襲うため、設営の際は風向きを慎重に読み、テントの入り口を風下に向けるなどの高度なテクニックが必要となります。
風の強さにさえ注意すれば、これ以上ないドラマチックな絶景を約束してくれる最高のキャンプサイトです。
久種湖畔キャンプ場:日本最北の湖畔で過ごす静寂と癒やしの時間

礼文島の北部、船泊(ふなどまり)地区に位置する「久種湖畔(くしゅこはん)キャンプ場」は、日本で最北にある淡水湖「久種湖」のほとりに広がる美しいキャンプ場です。
緑ヶ丘公園キャンプ場が「動の絶景(大パノラマ)」であるならば、こちらはまさに「静の絶景(癒やしと静寂)」を楽しめる場所と言えます。
周囲を穏やかな山々と静かな湖面に囲まれているため、海沿いのキャンプ場に比べて比較的風が遮られやすく、穏やかで落ち着いた夜を過ごすことができるのが最大のメリットです。
サイト内には美しい芝生エリアが広がり、テントのすぐ目の前に穏やかな湖が広がるロケーションは、まるで北欧の美しい水辺でキャンプをしているかのような錯覚を覚えさせます。
こちらのキャンプ場は設備が非常に充実していることでも知られており、綺麗に清掃されたトイレや炊事場はもちろんのこと、有料のコインシャワーやコインランドリーも完備されています。
さらに、バンガロー(簡易宿泊施設)も併設されているため、万が一の大雨や強風の際には無理をせず室内に避難するという選択肢が取れるのも、長期滞在のキャンパーやファミリーにとっては大きな安心材料です。
周辺には、日本最北端の集落であるスコトン岬や、美しい砂浜が広がる金田ノ岬などの景勝地が点在しており、島北部をじっくりと時間をかけて冒険したい方にはこれ以上ない完璧なベースキャンプとなります。
夕暮れ時、湖面がグラデーションに染まっていく景色を見つめながら、波の立たない静かな時間を過ごすのは、旅の最高のデトックスになるでしょう。
島独自のキャンプルール:野生動物への対策とゴミの徹底管理
礼文島の大自然の中でキャンプを楽しむためには、この島特有のルールとマナーを完璧に遵守する必要があります。
まず第一に、礼文島には本州や北海道本土とは異なり、「ヒグマやツキノワグマなどの大型の猛獣が生息していない」という非常にユニークな特徴があります。
これはキャンパーにとって精神的に大きな安心感を与えてくれますが、だからといって野生動物への警戒を怠って良いわけではありません。
島には多くの野生の「キタキツネ」や「カラス」が生息しており、彼らは人間の食べ物の味を完全に知っています。
テントの周りや前室にゴミ袋を出したまま寝てしまったり、食材をテーブルの上に放置して席を外したりすると、一瞬のうちに袋を破かれ、中身を散らかされてしまいます。
キツネはエキノコックス症という恐ろしい寄生虫を媒介する危険性もあるため、野生動物を絶対にテント周辺に引き寄せない管理が鉄則です。
食材や生ゴミは必ず密閉できるタッパーやコンテナ、匂いの漏れない袋に入れ、夜間は必ずテントの内部や車のラゲッジスペースに完全に撤収してください。
また、ゴミの分別と処分についても非常に厳格です。
離島である礼文島では、ゴミの処理能力に限度があるため、キャンプ場でのゴミの分別ルール(燃えるゴミ、缶、ペットボトルなど)を正確に守り、指定の場所へ廃棄するか、ルールによってはすべて持ち帰る必要があります。
美しい最北の自然環境を次の世代のキャンパーへ繋ぐために、「来た時よりも美しく」の精神を全員が徹底することが求められます。
直火の厳禁と周囲のキャンパーへの配慮
礼文島のキャンプ場では、地面の美しい芝生を保護し、火災を予防するために「直火での焚き火(地面で直接薪を燃やす行為)」は例外なく完全に禁止されています。
キャンプの醍醐味である焚き火を楽しみたい場合は、必ず脚の付いた「焚き火台」と、地面へ熱が伝わるのを防ぐ「焚き火シート(防炎シート)」を持参して使用しなければなりません。
また、風が非常に強い日には、焚き火の火の粉が強風に煽られて自分や周囲のテントに飛び散り、一瞬で火災を引き起こす危険性があります。
風速が強いと感じた日は、潔く焚き火を諦める決断力も、大人のキャンパーとしての重要な素養です。
さらに、礼文島に集まるキャンパーの多くは、翌朝の早朝4時や5時からトレッキングやハイキングに出発する本格的なアウトドア派が主流です。
そのため、夜の就寝時間が非常に早いという特徴があります。
夜の20時を過ぎたら、周囲は静寂に包まれ始めますので、大声での談笑や、明るすぎるランタンの明かりは控え、21時の「消灯時間(サイレントタイム)」にはテント内で静かに過ごすよう心掛けましょう。
波の音や虫の声、風の音といった自然のBGMに耳を傾けながら、最北の夜の静けさを全員で共有し合う配慮こそが、礼文島キャンプを最高に心地よいものにする秘訣です。
買い出しと燃料事情:島内での食材・ガス缶の調達方法
離島でのキャンプで最も懸念されるのが「食料や燃料の現地調達」ですが、礼文島にはいくつかの主要な拠点があり、最低限の買い出しは島内で行うことが可能です。
香深港フェリーターミナルの周辺や、船泊地区の集落には、地域の人々に愛されている個人商店や、北海道の定番コンビニエンスストアである「セイコーマート」が存在します。
特にセイコーマートは、温かいお弁当や惣菜が買える「ホットシェフ」のサービスを行っている店舗もあり、強風や雨でテントでの調理が面倒になったキャンパーの非常に強い味方となっています。
ただし、都会のスーパーのようにあらゆる高級食材やキャンプ用のおしゃれな肉が豊富に揃っているわけではありませんので、こだわりたい食材がある場合は、稚内市内の大型スーパーであらかじめ購入してからフェリーに積み込むのが最も確実です。
また、キャンパーにとって死活問題となるバーナー用の燃料(OD缶やCB缶)についてですが、一般的なCB缶(カセットボンベ)は島内の商店やコンビニでも容易に入手できます。
しかし、登山用の本格的な「OD缶(アウトドア缶)」については、島内の取り扱い店が非常に限られているか、時期によっては完全に在庫切れになっているリスクがあります。
高山植物の保護や離島の輸送ルールの関係上、ガス缶を大量に持ち込むのにも制限がある場合がありますが、基本的には稚内側のホームセンターやアウトドアショップで必要分をしっかりと買い揃え、万全の状態で島へ渡るルートを構築するのが、予期せぬガス欠を防ぐ最も安全なアプローチです。
3. 花の浮島を歩き尽くす:感動のトレッキングルートと失敗しない2泊3日キャンプモデルコース
礼文島キャンプ旅行の最大のハイライトは、島全体に張り巡らされた壮大な「トレッキングコース」の数々を歩くことにあります。
ただテントで寝泊まりするだけでなく、自分の足で歩いて初めて出会える絶景や、そこにしか咲かない花々を見つけに行くことこそが、この旅の本質です。
最終ブロックでは、島で絶対に歩くべき感動のトレッキングルートの魅力を詳しく紐解き、限られた2泊3日の滞在時間を1分も無駄にせず、キャンプと冒険を完璧に両立させるための「王道モデルコース」を具体的に提案します。
桃岩展望台コース:お手軽ながら島屈指の高山植物と絶景に出会う王道ルート
礼文島を訪れたハイカーが必ず最初に歩くべきと言われるのが、島の南部を巡る「桃岩(ももいわ)展望台コース」です。
このコースは、香深港からほど近い登山口からスタートし、巨大な桃の種のような形をした奇岩「桃岩」を仰ぎ見ながら、なだらかな尾根沿いを歩いていく片道約2時間前後のルートです。
歩行距離やアップダウンが比較的緩やかであるため、初心者や大きな荷物を背負わない軽装のハイカーでも安心して楽しむことができるのが大きな特徴です。
しかし、その手軽さとは裏腹に、景色のダイナミズムは島内でもトップクラスを誇ります。
コースの両側には、青く透き通った日本海の大パノラマが広がり、前方にはどこまでも続く緑のカーペットのような丘陵地帯が視界を埋め尽くします。
そして何より、このルートは「花の浮島」のポテンシャルを最も分かりやすく体感できる場所です。
6月から7月にかけて歩けば、歩道のすぐ脇にエゾカンゾウやレブンソウ、チシマフウロといった色鮮やかな高山植物がこれでもかと咲き乱れ、まるで天空に浮かぶ天然の植物園を散歩しているかのような深い感動に包まれます。
コースの終点近くにある「元地灯台(もとちとうだい)」周辺からの景色も素晴らしく、天候が良ければ遮るもののない水平線の向こうに利尻富士が美しくそびえ立つ姿を拝むことができます。
風が強く吹き抜けやすい尾根道であるため、ウインドブレーカーをしっかりと羽織り、カメラのシャッターを切りながら、非日常のトレッキングを満喫してください。
岬めぐりコース:島の最北端から断崖絶壁を駆ける圧倒的アドベンチャールート

より本格的な冒険と、言葉を失うほどのダイナミックな断崖絶壁の景観を求める中上級のキャンパーにおすすめしたいのが、島の北部を縦断する「岬めぐりコース(旧4時間コース)」です。
このルートは、日本最北端の岬である「スコトン岬」をスタート地点とし、ゴロタ岬、澄海岬(すかいみさき)といった島を代表する美しい岬を徒歩で一つずつ繋ぎながら、西海岸の過酷な断崖絶壁沿いを歩いていく、所要時間約4時間から5時間の本格的なロングルートです。
スコトン岬の荒々しい岩肌と波しぶきを見下ろしたあと、コースの中で最もきつい急坂を登りきると、目の前には「ゴロタ岬」の頂上から見下ろす、海の底まで見透かせそうなほどのマリンブルーの海岸線が広がります。
その圧倒的なスケール感と美しさは、これまでの徒歩の疲れを一瞬で消し去ってくれるほどの破壊力を持っています。
さらに歩みを進めると、まるで南国のレイのように美しいカーブを描いた入り江と、信じられないほどの透明度を誇るコバルトブルーの海が広がる「澄海岬」に到着します。
この澄海岬の美しさは「礼文島で最も美しい海」と称されることも多く、太陽の光の角度によってエメラルドグリーンから深いサファイアブルーへと表情を変える様子は、まさに一生モノの絶景です。
コース内にはアップダウンが激しい場所や、狭い崖沿いの道、砂利で滑りやすいエリアもあるため、本格的なトレッキングシューズ(登山靴)とトレッキングポール(杖)の装備が必須となりますが、歩ききった後の達成感と、五感に刻まれる最北の風景は、あなたの人生の財産になること間違いありません。
島のご褒美グルメ:最北の海が育む「ほっけのちゃんちゃん焼き」と「ウニ」
激しいトレッキングでエネルギーを消費した後は、礼文島が世界に誇る至高の海の幸で体と心を完璧に満たしましょう。
島の名物グルメの筆頭に挙げられるのが、夏の時期に旬を迎える「キタムラサキウニ」と「エゾバフンウニ」です。
礼文島周辺の海は、非常に上質で栄養豊富な昆布(利尻昆布)が育つことで有名であり、その極上の昆布を贅沢に食べて育ったウニは、雑味が一切なく、口に入れた瞬間に濃厚な甘みと高貴な香りが溶け出す、まさに別格のクオリティを誇ります。
香深港周辺の食堂や寿司店でいただける、ご飯が見えないほどウニが敷き詰められた「ウニ丼」は、それなりのお値段は張りますが、一口食べればその価値を誰もが確信するはずです。
そして、キャンパーに特におすすめしたい地元の味覚が、元地(もとち)地区の有名店などで食べられる「ほっけのちゃんちゃん焼き」です。
これは、水揚げされたばかりの新鮮な生ホッケを丸ごと一匹開きにし、炭火の上でじっくりと焼きながら、特製の甘味噌とたっぷりの刻みネギを身に絡めて食べる豪快な郷土料理です。
本州で食べる乾燥したホッケの開きとは全く異なり、生のホッケの身は驚くほどふっくらとジューシーで、脂の乗りが凄まじく、炭火で焦げた味噌の香ばしさと相まって、ご飯もビールも無限に進んでしまう悪魔的な美味しさです。
キャンプサイトでの調理用に、地元の鮮魚店で新鮮な貝類やイカを購入し、自分たちの焚き火台やバーナーで豪快に網焼きにする「島前夜祭」を企画するのも、キャンパーだけに許された最高の贅沢です。
礼文島満喫!2泊3日の王道キャンプモデルコース
ここからは、限られた2泊3日のスケジュールの中で、絶景キャンプ、極上グルメ、そして感動のトレッキングをすべて安全かつ効率よく網羅するための、完璧なタイムスケジュールを提案します。
移動手段は島内バス、またはレンタカー(マイカー)を想定しています。
【1日目:最北の島へ上陸・ベースキャンプ設営と利尻富士の夕景】
午前:稚内港からフェリーに乗船し、お昼前に礼文島・香深港に上陸。上陸後、ターミナル周辺の食堂で、まずは贅沢に「ウニ丼」のランチを堪能して旅のテンションを最高潮に引き上げる。
午後:まずは今回の拠点となる「緑ヶ丘公園キャンプ場」へ移動。風が強くなる前の穏やかな時間帯を見計らって、テントやタープを丁寧に、かつ強固に設営して完璧なベースキャンプを構築。
夕方:設営完了後、車やバスで近くの「桃岩展望台」へ。軽いウォーキングを楽しみながら、夕日に染まり始める桃岩の奇景を鑑賞。
夜:キャンプサイトへ戻り、セイコーマートで買い出した地元の食材やお酒で静かに乾杯。天気が良ければ、海の向こうに美しいシルエットを見せる利尻富士と、満天の星空を眺めながら、最北の夜の涼しさを心地よく体感しつつ早めの就寝。
【2日目:感動の岬めぐりトレッキングと最北の温泉での癒やし】
早朝:朝4時に起床。テントの入り口から朝日に照らされる利尻富士を拝みながら、温かいスープとコーヒーでエネルギーをチャージ。トレッキングの準備を整える。
午前:島の最北端「スコトン岬」へ移動し、いよいよ「岬めぐりコース」のトレッキングをスタート。ゴロタ岬からの大パノラマに息をのみ、西海岸のダイナミックな自然を肌で感じながら一歩一歩進む。
昼食:コースのハイライトである「澄海岬」に到着。エメラルドグリーンの異次元の海の美しさに感動したあと、岬の売店で名物の「タコ串」や「ウニ爆弾おにぎり」を食べてパワーを補給。
午後:船泊地区へ向けてコースを歩ききり、無事にトレッキングをゴール。心地よい疲労感を抱えたまま、香深温泉の「うすゆきの湯」へ移動。源泉かけ流しの温泉に浸かりながら、大きな窓の向こうに広がる利尻富士を眺めて、トレッキングの疲れを完全にリセット。
夜:元地地区の食堂へ移動し、炭火で焼かれる「ほっけのちゃんちゃん焼き」の絶品ディナー。夜は久種湖畔キャンプ場へ移動して2泊目の静寂を楽しむか、緑ヶ丘に戻ってギアのメンテナンスを行いながら、風の音を聞いて眠る。
【3日目:ノスタルジックな最北の風景を巡り、惜別の帰路へ】
午前:ゆっくりと起床し、結露したテントを最北の風と太陽でしっかりと乾燥させてから、スマートに撤収(クリーンアウト)。ゴミの分別処分を完璧に行う。
昼食:香深港周辺へ戻り、島名物の「昆布ラーメン」や新鮮な「ホッケフライバーガー」などの軽食を楽しむ。
午後:フェリーの出港時間まで、映画のロケ地としても有名な「北のカナリアパーク」へ。美しい木造校舎の向こうに浮かぶ利尻富士の、まるで絵画のような絶景を目に焼き付け、売店で利尻昆布製品や高山植物をモチーフにした可愛いお土産をまとめて購入。
夕方:香深港フェリーターミナルからフェリーに乗船。島の人々の温かいお見送りを受けながら、遠ざかっていく礼文島の雄大な魚の形をした魚影をデッキから見つめ、稚内港への帰路へ。
この2泊3日のモデルコースは、礼文島の気象条件とハイカーの体力を極限まで考慮し、最も美しい景色を最高のタイミングで安全に切り取るために計算され尽くした最強のプランです。
過酷さと美しさが表裏一体となった最北の離島だからこそ、しっかりとした装備の準備と、自然へのリスペクトの気持ちを忘れずに持っていけば、これまでの人生のどのキャンプとも違う、特別な感動があなたを待っています。
日常の喧騒を完全に忘れ去り、風と花と海が織りなす「最北の楽園」へ、あなたもバックパックを背負って旅に出てみませんか?


